第5回 在庫管理の鉄則は一品別管理!

1.<いばらの道>も一歩から

筆者が生産管理の世界で、(在庫削減ではなく)在庫適正化を主張し始めたのは2000年に日本IE協会の適正在庫セミナー講師を務めるようになってからであるが、それ以来、コンサル仲間から物議をかもす奴だと敬遠されたり、雑誌などで大御所の大先生方から一方的に攻撃されたりなど、わが歴史はいばらの道であったなぁと思う。

しかしその後、リーマンショックのような経済危機だけでなく、各地震災・水害などによるサプライチェーン寸断などの経験を経て、在庫に対する世の中の考え方はだいぶ変わってきたように思う。適正在庫のセミナーは、その後、主催機関が増えたり減ったり変わったりと変転を経ながら継続され、「適正在庫の考え方・求め方セミナー」と名称はやや変更されたが、累計受講者が2,000名を超えるロングランを続けている。

現在は同業者をお断りしているが、ある時期までは、SAPジャパンやSASのようなソリューションベンダーのプロフェッショナルたちが受講して在庫理論を学び、それを基に彼らのクライアントに技術指導していたので、同セミナーはこの分野におけるいわば元売り的な存在である。一般企業でも、トヨタやパナソニックなど、日本を代表する企業の多くが受講者を送り込んできた。

 

2.<初心忘るべからず>のココロとは

このセミナーで、最初から一度も変更を加えていないパワーポイントのスライドが1枚だけある。それは“このセミナーの狙い”のスライドで、初心を忘れないためにあえて変えずに使い続けている。このスライドのポイントは、「そもそもできっこないことを、人に強制することもされることもしたくない」ということである。つまり、在庫ゼロは原理的に実現不可能なことなのに、これを実現したりさせようとする悲しい無駄が許せなかったのである。多くの場合、在庫ゼロは体育会系的な精神主義・根性主義の強圧的な指導で進められており、これを排して、もっと科学的で合理的な問題解決を図れないものかと考えたのだ。

このことで連想するのは、キリスト教の“汝姦淫するなかれ”という教えである。人間、生きていればエッチなことを考えてしまうのは自然なことなのに、それを悪と決めつけて相手に罪悪感や劣等感を植え付ける点が同じ手口だと思うのだ。

キリスト教の場合(信者の方、どうかお気を悪くされないでください。これはキリスト教だけでなく他の宗教でも、宗教以外でも言えることだと思っています)、懺悔させたり、ある時代には免罪符を売りつけたりしていたわけで、他者を自分の思い通りにコントロールしようとするときのテクニックとして、相手が絶対できないことを要求するという手口があるように思えてしまうのは、筆者だけではないと思う。

 

3.在庫は<減らさず>、<適正化>する

そんな考えが背景にあって、在庫を持っていることで、持たなくてもいい罪悪感を持たせられている方々を救いたいなぁという思いが、適正在庫という考え方の原点になっている。そのため、この「適正在庫の広場」では、筆者は在庫を減らそうとは言わず、適正化しよう!と言っている。

在庫削減と在庫適正化の違いは、在庫適正化では、減らす品目と増やす品目の両方がある点である。一生懸命在庫削減活動を進めているのにいっこうに在庫が減らないという相談を受けて工場を訪問すると、ほとんどの場合、適正在庫数に比べて多すぎる品目と少なすぎる品目の両方が混在していることが判明する。さらにその原因を調べてみると、それが経営トップの在庫削減大号令であることがある。

つまり、経営方針として「在庫を減らせ!」を掲げると、現場では“減らしやすいAランク品から手をつけて、減らしにくいCランク品は後回し”にするという事になりやすい。その結果、売れ筋の在庫が必要以上に減らされることになる。売れ筋なので欠品を防ぐようにと過剰管理が要求されて…と、きちんと管理をしようとすればするほど事態が悪化していくのである。

けれども、このケースで悪いのは、号令をかけたトップではなく、トータルで在庫削減の効果を出せばいいと考えたスタッフである。なぜなら、在庫管理の鉄則は一品別管理であって、決してまとめで考えてはならないからだ。

まとめ生産はよくないといわれるが、在庫管理においても同じである。一品別に適正在庫を算出して、増やすべきは増やし、減らすべきは減らすという一品目ごとの管理が大切なのである。

 

さて、筆者が、「第3章安全在庫配置とサプライチェーン構成」の翻訳を担当した『サプライチェーンハンドブック』(朝倉書店刊)が増刷となった。欧米におけるSCM研究の到達点を示す重要文献であるので、ぜひご覧になっていただきたい。

第4回 足し算・引き算の生産管理

先月号で「生産管理はもっと簡単になる!」と述べたところ、多くの反響があった。そこで、今月はどうして簡単になるのかを説明しようと思う。

ひとことで言うと、適正在庫基準値を正しく設定すると、生産管理は足し算と引き算だけで実行できてしまうようになるからなのだが、そのことを以下に解説していく。

生産管理のさまざまな機能のなかで、適正在庫を導入することで解決するのは、生産計画の部分である。多くの生産管理担当者がいちばん頭を悩ませているところだ。生産計画のはたらきを簡単にいうと次のようなことになる。

<何をいくつ、いつ、つくるかを決める>

つまり、品目と数量と時期を決めることが、生産計画の大切な機能ということになる。この機能をどう実現するのかについて、生産リードタイム分類に基づいて説明していく。

 

1.短リードタイム品は発注点管理で!

生産リードタイムの短い品目は、発注点を設定して発注点管理を実施すればいい。発注点管理とは、毎日在庫数をチェックして、これが発注点を割ったらあらかじめ決められた数量の生産指示を出す、という生産管理方式だ。いろいろある管理方式の中で、最も簡単に運用できる方式である。

短リードタイム品には発注点管理というが、どの程度の長さのリードタイムを短いとするかが判断の分かれるところだ。厳密には、発注点管理をとったときの理論在庫(理論的な平均在庫)と、次に述べる定期発注方式をとったときの理論在庫とを比べて、発注点管理をとった場合の理論在庫のほうが小さければ、発注点管理を採用することになる。発注点管理方式をとったときの発注点の値は、リードタイム期間中の需要をまかなえるだけの在庫量プラスアルファとなるので、リードタイムが2~3ヶ月以上に長くなると在庫月数は2~3ヶ月以上となり、在庫増を招くことになるのである。

発注点管理を導入するときに一番大切なことは、正しい発注点を設定することである。しかしこの値、広く知られている古典在庫理論では、正しい値を求めることはできない。なぜなら、古典理論では、間欠需要やリードタイム変動に対応していないからである。在庫理論の教科書を読んで、実際の在庫管理にあてはめてみたけれど、どうも使い物にならないという相談が多いのはこのためである。

今、正しい発注点を算出する唯一の方法は、適正在庫算出システムAPIMを導入することである。APIMを使うと、誰でも簡単に正しい発注点を求めることができる。あとは、日々の入出庫数を足し算・引き算して在庫数のチェックをし、発注するかどうかを決めるだけで生産管理が実行できてしまうのである。

 

2.長リードタイム品は定期発注方式で!!

生産リードタイムが長い場合は、生産指示を出した品目ができあがる頃の需要を予測して、いくつ生産するかの数量を決める生産計画を立てることになる。月に1回とか、週に1回とか定期的に生産計画を作成するので、定期発注方式である。

この方式の場合は、毎月あるいは毎週きまった日に生産指示を出すことになるが、そのときの生産指示数をどう決めるかがポイントとなる。

 

生産指示数=対象期間中需要予測量+リードタイム中需要予測量-手持在庫-発注残+安全在庫

 

この計算式に基づいて、粛々と生産指示数を求めればよい。需要予測数として営業部門から販売計画をもらえれば、あとは足し算と引き算だけである。実に簡単である。ただし、安全在庫を正しく設定する必要がある。これは、APIMを使うことで簡単に算出可能になった。この安全在庫は、需要予測誤差や在庫予測誤差、あるいは納期遅れや歩留り変動などさまざまな要因を考慮して求める必要があり、従来の在庫理論では、まったく歯が立たないようである。これも目下のところ、APIMを使うのが唯一の解法ということになる。

 

3.それ以外は、、、

ERPや生産管理パッケージで、MRP方式をとっているところは、MRP安全在庫をAPIMを使って求めて、システムマスターに登録するだけでOKである。あとはシステムが自動的に発注を出してくれる。

かんばん方式を導入しているところは、かんばん枚数に相当する補充点を、APIMで計算すればよい。現場のカンと経験に過度に頼る必要はない。科学的手法を使ったほうが得策である。

 

以上のように、適正在庫基準値である発注点、安全在庫、補充点を、APIMを使って正しく設定することで、生産管理は足し算と引き算の世界になるのである。

第3回 神楽坂SCMサミット

ギリシャ神話に「ゴルディウスの結び目」という伝説がある。

昔々、神に献じられていた荷馬車が、複雑なかたい結び目で神殿に縛り付けられており、これをほどいた者は全アジアの王となるであろうと伝えられていた。これが、ゴルディウスの結び目である。多くの者がこれをほどこうと挑戦したが誰もほどくことができなかった。

アレクサンドロス大王は、この伝説を耳にし、彼も結び目をほどこうとしたが、いっこうにらちがあかず、もどかしくなった彼は剣を抜き放ち、一刀両断、結び目を断ち切ってしまったという。

皆が、複雑さをそのまま扱おうとして、複雑な世界から抜け出せないでいたときに、彼は抜き身の剣のような純粋さで、複雑な世界を切り捨てたのである。そして、世界の覇者となった。

………

技術というのは優れたものが生き残るのではなく、力のある者に利益をもたらすものが生き残る。長年のエンジニア人生を振り返って、私が思うことである。

原発技術について考えると、とりわけその思いが強くなる。地熱発電技術など安全で優れた技術があるにもかかわらず、それよりも危険で未熟で複雑な原発技術の開発が優先されてきた。原発技術に投じた資金と時間を、自然エネルギー技術や蓄電技術に振り向けていたらもっと違った結果になったであろうことを考えると、つくづく悔しい思いになる。

生産管理技術の世界においても、それは同様である。“かんばん方式”は、力のある完成車メーカーの在庫削減・コスト削減には有効な方式ではあるが、立場の弱い下請企業にとっては過剰な在庫負担を強いられるものであった。私は中小企業診断士として現場の社長たちから生の声を聞くことが多かったが、世の中のトヨタ式ブームに反して、彼らの怨嗟の叫びを聞くことが多かったように思う。

生産管理システム、なかでも生産管理情報システムについては、その技術の主導権を握ったのは、ユーザーではなくコンピュータメーカーやソリューションベンダーであった。CIMやMIS、SCMといったキーワードが、彼らのセールスコピーから始まったことを思い起こせば納得できるであろう。

例えば、MRPがERPの標準的な方式となるほど生産管理方式としてメジャーなのは、コンピュータ業界やソリューションベンダー業界に利益をもたらすものであったからである。

初期のMRPで資材所要量計算を実行するためには、高価で高性能なコンピュータの導入を必要としたし、これが安価なパソコンでも実行できるようになると、今度は高精度の需要予測を売り物にするソリューションベンダーが登場する。MRPの構造的欠陥により、この方式のもとでは需要予測を的中させる以外に在庫を適正化することは不可能だからである。かくしてMRPユーザーは、不完全なシステムに膨大な投資を繰り返す結果となった。

生産管理は難しい、生産管理システムは複雑であるなどなど、生産管理や在庫管理の相談をもちかける方々の悩みはもっともである。MRPに限らず、不完全な生産管理システムしか提供されてこなかったからである。そしてその不完全さと複雑さのおかげで、ソリューションベンダーの仕事の種は尽きることがない。

また、生産管理の解説書も同罪である。何度繰り返し読んでもよくわからないのは、読者の頭が悪いからではなく、筆者もよくわかっていないからである。難しい内容をより難しく書くことで読者を煙に巻いているのかもしれない。

生産管理は複雑で難しいので、システム開発に時間も費用もかかるものであると、われわれは思いこまされているのではないだろうか。なぜなら、APIMを活用して正しい在庫基準値(発注点、安全在庫、補充点など)を設定・適用することで、生産管理システムの問題はきわめて単純に解決されるからである。まさに、アレクサンドロス大王の“抜き身の剣”である。

 

この技術を武器に生産管理の世界に革命を起こそうともくろんでいる

 

先日、このもくろみを密かに心に抱いて、ある会合をセットした。アスプローバの高橋さん、カイゼン本舗の竹之内さん、ゴール・システム・コンサルティングの村上さん、ジット経営研究所の古谷さん(いずれも社長、五十音順)と私が、神楽坂のさる料亭に集まったのである。

会には『神楽坂SCMサミット』という名前がつけられ、生産管理の世界に革命を起こす方向に向かって活動を始めた。活動内容は、この連載でも紹介するが、主にツイッター、フェイスブックで紹介していく。ぜひチェックしてみていただきたい。

第2回 生産管理の安全在庫はピカソロジックで!

読者の皆さん、こんにちは。今回はツイッターからとても興味深いご意見が寄せられましたので、それをご紹介します。

 

>『考え方・求め方』の方法で計算すると、理論在庫<在庫実績の品目が大半でした。恐らく数量も理論<実績です。対象は販売拠点・物流拠点ではなく、生産管理分野です。(@yryo)

<生産管理分野の安全在庫ですと研究が大幅に進展しています。工場管理7月号の記事をどうぞご覧になってください。(@inventory_apim)

>>ぜひ読ませていただきます。問題は需要変動に対する安全在庫より、生産トラブルに対するそれのような気がします。定量化が難しいです。(@yryo)

<<最新APIMでは、ピカソロジックで、需要変動対応安全在庫、需要予測誤差吸収安全在庫、歩留まり変動対応安全在庫、納入過不足対応安全在庫、、、、などの複数種安全在庫を重ね合わせ計算して総合的な安全在庫を算出します。 (@inventory_apim)

 

@yryoさんがご意見をお寄せくださった方で、@inventory_apimが私です。

@yryoさんは、拙著「適正在庫の考え方・求め方」に従って適正在庫を計算し、自社の製品にあてはめて研究されるなど、とても熱心に在庫管理に取り組んでいらっしゃる方です。生産管理の世界では、需要変動よりも生産トラブルに対する安全在庫の方が問題になっているとのことでした。

そこで今月は、生産トラブルに対するものなど、供給変動に対応する安全在庫を計算するAPIM技術であるピカソロジックをご紹介しようと思います。

古典理論における安全在庫とは、“需要変動または補充期間の不確実性を吸収するために必要とされる在庫”(JIS Z8141)として定義され、ただひとつの値を考えていました。

APIMでは、安そも研究(安全在庫とはそもそも何だろう研究)を踏まえて、安全在庫はひとつではなくさまざまな種類があることの発見を基に算出を行います。まず、次に示す複数の安全在庫を個別に求めます。

 

1.需要予測誤差吸収安全在庫

今回の生産でまかなう需要量は、予測によるものですが、これが外れると在庫が足りなくなったり余ったりします。この過不足を吸収する安全在庫です。

 

2.在庫予測誤差吸収安全在庫

生産品目や調達品目が倉入れされるのは何週間か何ヶ月か先の将来の時点になるのですが、その時点における在庫量を予測して生産・調達数量を決める必要があります。この予測誤差を吸収するための安全在庫です。

 

3.歩留変動対応安全在庫

生産したものが全て良品とならない場合がありますので、通常は歩留りを考慮した生産計画を立てます。この歩留りが安定していれば不足分を割り増しするだけでいいのですが、歩留りが変動する場合は、その変動により生じる過不足に対応する安全在庫が必要になります。

 

4.納入過不足対応安全在庫

生産能力の不足や、取引先のなんらかの都合によって、発注量を満足しない数量が納入されることがあります。過剰な場合もあります。これに対応する安全在庫です。

 

5.納入遅れ対応安全在庫

決められた納入日に遅れる場合、不足分に対応する安全在庫です。

 

APIMでは、これら5種類の安全在庫を個別・精密に計算し、その後それぞれの値の重ね合わせ計算をおこなって最終的な安全在庫を算出するのです。5つの値の単純な足し算にはならず、確率理論に基づく重ね合わせ計算が必要になります。

この一連の技術のことを『ピカソロジック』と名付けました。図に示したように、複数視点の画像を一枚の絵に統合表現するというピカソの絵画を見ているときにひらめいた技術だからです。

連載2回目の今月に、早速ツイッターから寄せられたご意見を取り上げました。これからも皆さんのご意見・ご質問を積極的に取り上げていきますので、どんどんお寄せください。

第1回 あなたはどちらのサプライチェーンを選びますか?

適正在庫という考え方が、かつてないほど広がりをみせています。

リーマンショック、東日本大震災と立て続けの経済・サプライチェーン危機を経たことで、最小限必要な在庫=適正在庫をきちんと持ちたいという意識が、経営者にも現場管理者・技術者にも浸透したようです。

この連載は、そんな適正在庫の考え方を正しく伝えるとともに、生産管理・在庫管理に携わる方々との交流の場を設けたいとの思いで始めまし た。

十年前、在庫ゼロを理想とすることが常識であった生産管理の世界で、「いやいや、ちゃんと適正在庫をもちましょう」という主張をはじめた私としては、昨今の風潮はうれしくあるものの、誤解や無理解に基づく玉石混淆状態を心配しています。適正在庫のキーワードだけを標榜する間違った考え方が広まることで、正しい技術が追いやられる「悪貨が良貨を駆逐する」事態になることを避けたいと思ったのです。

特に、インターネット上に流通する情報に混乱が見られるようです。今、「適正在庫」というキーワードでgoogle検索をすると300万件近くがヒットします。

これは喜ばしいことなのですが、どうも適正在庫の考え方を取り違えていたり、売らんかな主義で言葉を並べただけのところも多くあるようなのです。そこで、適正在庫の考え方を正しく世の中に伝える場をつくろうと思い立ち、さらに多くの方々の疑問に答える機会を設けようと考えたわけです。

「適正在庫」という言葉自体は昔からあり、特に商業関係では一般的に使われていました。私が生産管理の世界で初めてこの言葉を使ったのは、2000年のことですが、その当時、モノづくりの世界では「在庫は悪」であり、「在庫ゼロ」が生産管理の理想とされていました。そんな環境で「適正在庫」を言い出したのですから、相当な軋轢が生じたのを覚えています。

しかし、2003年に出版した「適正在庫の考え方・求め方」(日刊工業新聞社刊)に続く適正在庫三部作がベストセラーになるなど、その後少しずつ適正在庫の考え方は市民権を得るようになりました。

2000年当時に、私が掲げた適正在庫の定義は次の通りです。


【適正在庫の定義】

欠品を防止しながらぎりぎりまで在庫を減らせる限界値


できるだけ在庫を減らしたいのはやまやまだけれども、必要最小限の量はちゃんと持とうよという考え方です。

そして、そのような値がわかればいいね、ではなく理論研究を踏まえて適正在庫を計算する技術も開発したのです。その技術を実装したソフトウェアは、「適正在庫算出システム APIM」として市販されるようなり、今では誰でも適正在庫を知ることができるようになりました。

適正在庫の考え方を世に広め始めた当初、よく反論されたのが「適正在庫の値はゼロである」という主張でした。これに対して私は明確に「No!」と答えてきました。なぜなら在庫ゼロは決して実現することのできない値だからです。そのことを理解せずに「トヨタではできている」と勘違いして本当に実現しようとすると、多くの場合、取引先や顧客に不当に在庫負担を強いることになってしまうからです。

適正在庫を知ることができなかった時代には、ゼロを目指して在庫削減に努力しようという主張はそれなりに意味をもつものでしたが、APIMの登場により誰でも簡単に自社の適正在庫を知ることができるようになったのですから、在庫ゼロ思想は害悪以外のなにものでもありません。

在庫ゼロ思想は、足を鎖で縛りつけたサプライチェーン。適正在庫思想は、メンバーが手を組み合うサプライチェーンなのです。

この連載は、読者の皆さんと双方向で作り上げていきたいと思っています。適正在庫をキーに皆で活発に情報・意見交換や議論ができればいいなと考えています。編集部経由でも、冒頭のツイッター、フェイスブックを通してでも結構ですので、ご意見・ご質問などどんどんお寄せくださいませ。次回以降は、皆様からお寄せいただいたご質問をとりあげる<Q&Aコーナー>を設ける予定です。