第18回(通算76回)さまざまな確率推論を活かす

 

【既成概念を脱ぎ捨てる】

夏の間だけですが、葉山にある研究所では、ひとりになってパンツ一丁でプログラミングをしていました。適正在庫を計算するコンピュータプログラムは、実はこうして生み出されていたのです。

ソフトウェア開発の仕事はアイデアが大切なので、従来になかったような斬新な発想をするためには、既成概念を脱ぎ捨てる必要があったからです。服を脱ぎ捨てるというカタチから入っていこうとしたわけです。

考えてみれば、私たちは生まれてからずっと、いろいろな衣服やら鎧やらをまとっていたように思います。子供の頃は、親や学校の先生からよい子になるようにしつけられ、会社に入れば理想の社員像を示され、家庭ではよき父母として振る舞うことを求められ、という具合にいつもどこかで「あるべき姿」を示されて、無意識に他人から与えられた理想を目指していたように思えます。

学術分野でも、受験の際の無駄なく短時間で正解に辿り着く効率的思考法に始まり、専門分野の常識的発想から逃れられなかったり、自分自身の成功体験の枠の中でしか発想できなかったりということが多いように思います。

こういうときに、いかに既成のとらわれから解放されて自由な発想をするかが重要なのですが、オフィスで机に向かっていてもよいアイデアが生まれるわけではないことなど皆さんご承知の通りです。外を散歩したり、瞑想したり、音楽を聴いたりとその人その人でさまざまなやりかたがあるわけです。

 

【プロダクションルール】

服を一枚一枚脱いでいくように、自分の考え方のクセをはいでいく。あるいは、大前提として疑ってみたこともないような事実認識を洗い直してみる。知的な作業においては、このようなプロセスが必要不可欠となります。

事実も不確実、考え方そのものも不確実。こんな思考の進め方を、多くの経営者は日常的に行っています。確実な事実情報を基に、確実な方策を実行するだけなら誰でもできるわけですから、当然といえば当然です。そして、生産管理の現場では、ミクロなレベルでのマネジメントが同様に行われているといってもいいでしょう。何をいくついつ、つくるのか調達するのかというのは、不確定な情報を基にする意思決定なわけですから、生産管理者というのはまさに工場現場の経営者なわけです。

 

この意思決定においても、どのように考えを進めるのかという方法を自覚することが大切になります。

 

私は、学生時代に覚えた麻雀で身につけた経験則を、社会人になってからのAI研究で編み出した技術で手法化したやり方で判断しています。AI研究といっても、今はやりのディープラーニングではなくて 、第2世代のエキスパートシステムです。故障診断等で専門家が持っているノウハウを IF~THEN~ という形式のプロダクションルールで記述し、これをたくさん集めたルールベースを使って推論エンジンで原因を推測するというシステムのことをエキスパートシステムといいます。

 

ここで、IFの後の「~」には、「熱がある」とか「異臭がする」などといった事実がくるのですが、この事実が本当かどうかを「本当である確率60%」などといった真偽確率を付けて表し、さらに、個々のプロダクションルールにも、その判断ルールの確からしさの確率を付けて、それで、推論エンジンを動かすわけです。 わかりやすい例でいうと、「風が吹けば桶屋がもうかる」というプロダクションルールの信憑性確率が80%で、明日風が吹く確率が50%だったら、80%×50%=40%が「明日に風が吹いて桶屋が儲かる確率」であるということになるのです。 その後、適正在庫理論の研究で磨いた確率分布を合成する技術も使って 真偽確率を確率分布で捉えるように改良をすすめて、今日に至っています。

ただ、いつもこの手法に則って、真偽確率付きの事実と信憑性確率付きプロダクションルールを列挙して、推論をしているかというとそうでもなくて、多くの場合は暗算をするように、頭の中で推論を進めます。だんだん面倒くさくなって、途中処理をすっ飛ばして、直感で答えを出すことも多いのですが、こっちの方が優れた解答になることも多くなってきました。

 

【アンサンブル予測の有用性】

気象庁の技官の方からアンサンブル予報という気象予測手法を教えていただきました。予想精度の向上した気象情報を用いることで、食品の需要予測を用いることで、食品の需要予測を上げて食品廃棄を削減しようとする活動の中のことです。私からは、サプライチェーンマネジメントやロジスティクスの技術を提供し、気象庁・気象協会からは気象予報に関する情報提供をいただいて、研究活動をすすめたわけです。

最新の気象予測では、スーパーコンピュータを使った物理現象のシミュレーションを行っており、そのシミュレーションの初期状態として、複数種類の前提を置きます。つまり、前提事実がひとつに確定していないシミュレーションであるわけです。

これで、シミュレーション結果を折れ線グラフにプロットしていくと、時間軸方向に複数線の折れ線が幅を拡げながら伸びていきます。その幅の大きさから、予測値のバラツキを求めて気象予報を出すのだそうです。

流れを止めない適正在庫の算出には、このアンサンブル予報にヒントを得た技術が使われています。安全在庫の量を決めるのに、ばらつきの大きさが効いてくるのはよく知られていますが、そのばらつきの予測を、複数の種を蒔くことで行う技術であるとご理解下さい。複数の種のことをシナリオと名付けて、「過去延長シナリオ」、「楽観シナリオ」、「悲観シナリオ」などといった将来の入出庫予測を用意することで、過去データがなくても、需要予測や適正在庫計算ができるようになったのです。

 

 

 

 

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