第30回(通算88回)本当にに美味しい平飼い卵はどこにある?

【太郎くんの目玉焼き】

この連載をリニューアルして最初の記事で取り上げたのが、冷蔵庫の中の卵の在庫管理でした。この記事では、毎朝朝食に目玉焼きを自炊している太郎君(若き日の私がモデルです)が、新鮮な卵を食べるための在庫管理をどうしたら良いかという設問で、発注点管理における適正な発注点はいくつになるかという問題に際する考え方を説明したのですが、この設問は20年ほど前に講師を務めた、日本IE協会主催の技術セミナー「適正在庫の理論と実際」の第1回から、現在私が講師を務めるセミナーに至るまでの定番演習課題になっております。

世の中に「適正在庫」の考え方とキーワードが広がり始めたのはこのときが初めてでしたので、「卵の在庫管理」は、まさに流れを止めない適正在庫理論の原点であるわけです。

 

【平飼い卵はおいしいのか】

太郎金の時代から30年以上を経た今でも、私は朝食の目玉焼きを自分でつくっております。子供時代は、庭外ニワトリの産み落とした卵を集める仕事が私の重要任務で、あるときなどニワトリ小屋の前に腹ばいになって産卵の瞬間を観察し続けたこともあります。

散乱するとすかさず私は小屋の中に押し入り、大騒ぎのメンドリたちをかき分けて進み、最後は雄ドリとの対決を経て、新鮮そのものの暖かい卵をゲットしたものです。

普段は庭に放たれて、虫やミミズや草や、時には庭の畑の野菜などの中から自分で選んだエサを自力で獲得して食べているニワトリの卵には野生の力がみなぎっています。それはそれはおいしゅうございました。もちろん卵をおいしくする祖父直伝のエサも与えておりましたから、完全な野生ドリではありませんでしたが、どっちを選んで食べるのかはそれぞれのニワトリの自主性に任されていたので、野生(自然)と人間(文明)の共存が成立していたと考えられます。

というわけで、本当においしい卵の味を知っている私としては、最近巷で話題の「平飼い卵」がとても気になり、早速リサーチをしました。その結果、わかったことは以下の通りです。

①言葉の氾濫と混乱
友人から「平飼い卵」を勧められてスーパーに行くと、他にも「放し飼いたまご」、「放牧卵」など、類似名称の卵が氾濫していました。スーパーの店員さんに尋ねると「さあ…。一番高いやつなら間違いないのではないのでしょうか」とのご返答。そこで、購入を保留してグーグル先生に聞いてみることにしました。
すると、ネット上ではさらに言葉の混乱に拍車がかかっていました。さまざまなブログや協会が出てくるのですが、複数の主張相互の整合性チェックをすると不適合が見つかりましたので、どれが本物なのかまったくわからなくなりました。これは、「適正在庫」キーワードの現状と同じと言っていいと思います。

②高い卵ほどまずい
こうなったら、地頭アプローチよろしく地味覚アプローチとばかりに、スーパーで全種類購入して全部を食べてチェックしました。賞味期限を揃えて、生卵、目玉焼き、ゆで卵の3種類の調理方法で確認しました。その結果わかったこのは、豪華包装の最高価格の卵が一番まずいということです。これはさらに鮮度表示にも問題があるようで、目玉焼きの黄身が崩れてしまうこともありました。

「平飼い卵」名称を使っているものは最安値で、それなりにおいしかったのですが、平飼いの定義が、「日照時間内一定比率時間以上の小屋外身体運動」とされていて、実現不可能な厳密管理・定義にかえって不信感が生じてしましました。これでは、ニワトリは楽しい散歩ではなく強制的に身体運動させられている現代奴隷状態であり、平飼いの精神に反するのではないかと思ったからです。

③ニワトリの幸せが一番
そんな中で、ダントツにおいしかったのが2番目に安い放し飼いたまごでした。そのおいしさに感激して生産者に問い合わせたところ、電話に出た事務員の女性が嬉しそうに説明してくださり「もっと詳しいものから後ほどご連絡させます」とのことで、ホントかしら?と待っていたら、本当に電話がかかってきて懇切ていねいに教えていただきました。

そしてわかったことは、この生産者はブームになるはるか以前の30年前から放し飼いをしていて、その基本は「ニワトリの幸せを一番に考えている」ということでした。なるほど、働いて下さるニワトリさんの自由意志を認めて幸福な日常生活を送ってもらうことで、消費者は最上のの卵を得ることができ、生産者の経営も成り立つという構図なわけです。もちろん、おいしい卵生産ノウハウの詰まったエサも与えているけれど、自力獲得の虫などとどっちを食べるのかは、それぞれのニワトリの自主性に任されているとのことでした。

 

【悪貨は良貨を駆逐する】

ここで、3ヶ月前の連載「流れを止めない適正在庫の見える化」に戻ります。天動説を唱えたコペルニクスが登場した記事ですが、この人は章題に掲げた「悪貨は良貨を駆逐する」という経済現象の第一発見者でもあります。金・銀の含有比率を正しく守った良貨が、後から含有比率を偽って発行されたニセ貨幣たる悪貨が流通するようになると、そちらの流通量が増えることにより、次第に駆逐されてしまうという現象であります。

つまり、先の放飼を30年以上前から始めていた良心的な生産者が、後からブームに乗って大手流通をバックに参入してきたまずい卵に駆逐されるのではないかと、ひそかに心配している今日この頃です。賢明なな読者諸氏ならすでにお気づきのことと思いますが、ホンモノはここにしかないということであります。

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