第15回(通算73回)マイナス消費税という発想転換

【在庫の歴史観】

大昔のことですが、在庫をたくさん積み上げるためにどんどん生産拡大に励んだ時代がありました。その後、在庫削減の時代を経て、適正在庫の時代になりました。そして、これからは「流れを止めない適正在庫」の時代になります。

土地・建物の在庫である不動産の世界でも、同じような変遷がおこっています。昔、保有することがあこがれの的であった別荘の多くは、今や不良資産になって維持費や税金負担がかさむのに転売先も見つからないので二束三文で投げ売りされるようになってしまいました。

知識・情報も同様で、多くの情報が提供されることは良いことだという価値観の下、ラジオ・TVの多チャンネル化に始まり、インターネット・SNSの時代になってみると、世の中にはフェイク・ニュースが溢れてしまい、ホントにこれで良かったのかと多くの人々が疑問に思い始めています。人工知能(AI)についても、沢山のデータを与えて自力学習させればいいかというとそうでもないようだという気づきが始まっています。きちんと整理・整頓されたデータや、価値ある情報を与えないと、役に立たないどころか人類全体に害を及ぼすようなAIが出現してしまいそうです。

いちばん大切な人的資産についてはどうでしょうか?SNSの友達を増やすことで、つながり拡大を皆が競った時代はとっくの昔に終わり、自分にとっての心地よいSNSコミュニティづくりが大切だということに多くの方々が気づきはじめています。ただし、健全なコミュニティを維持するためには、新しい友達獲得と親交のなくなった旧友整理の両方が必要なようで、ここでも流れの維持が重要な方策となるようです。人口問題としては、先進国になると少子化が進みますが、これを緩やかな微増維持状態に持って行くことが重要なように思います。

 

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【make to stockを知っていますか】

「見込生産」に対応する英語は「MTS」ですが、何という言葉の略語なのかを知っている人は少ないでしょう。「make to stock」が正解で、今手元にある APICS Dictionary(TENTH EDITIO)の定義には、見込み生産の内容が示されているのですが、「make to stock」を直訳すると「在庫するための生産」になってしまうところが、今日の我々には奇異に感じられます。この英語の用語がいつ頃成立したのかまでは調べがつきませんが、おそらく在庫は大事な資産でありたくさん保有しようという考え方が支配的な時代につくられた用語ではないかと思います。

そもそも在庫に対する価値観は次のような変遷を辿ってきました。

①安心の源の誕生(農耕生活の開始)

②大切な財産(どんどん増やせ)

③在庫は悪だ(無在庫経営が理想)

④多すぎず少なすぎない適正在庫(均衡解の追求)

⑤流れを止めない適正在庫(システム最適化)

振り子が右に振れたり左に振れたりして段々真ん中に収束するように、在庫に対する価値観も段々と収束するように思えます。そこで、モノの在庫資産に対する価値観の変遷を辿ることで、資産全般の価値観変遷を考察しようと思います。

蓄えることができるようになると、まずは各人の欲望のままに「たくさんあることはいいことだ。とにかく生めよ増やせよ」という段階に突入します。これが競争をうみ、皆が頑張ることで世界全体の資産量が増えます。ところが、これがいきすぎて供給過剰の時代に突入すると、在庫資産はリスクになりますので、一転して「在庫は悪だ」という価値観に変わっていくわけです。すると、今度は各人がいかに少ない在庫でうまくやっていくかの競争の時代となります。これが、ついこの間までの「在庫削減の時代」です。けれども、これも皆が同じように在庫減らしに走ると、供給が滞って売上が伸び悩むだけでなく経済全体も縮小してしまい、皆が不幸に陥ります。目先の利く会社は、方向転換を既に始めていて、自社の在庫適正化に取り組んできました。そして、次の段階としてサプライチェーン全体の在庫資産最適化を模索し始めている。現状は、ざっとこんな感じでしょうか。各種資産に対する価値観の変遷の行く末も見えてきたように思えます。

【電子マネーの可能性】

システム工学的に見て、人類の発明した最も重要な人工物は「お金」ではないかと思います。このシステムがIoTによって今大きな転換期を迎えています。そこで、お金を在庫に見立てて、金融資産の価値観の変遷を考えてみたいと思います。

貨幣の誕生以来、ずっと「多ければ多いほど良い」という価値観で続いてきましたが、これが変わりつつあります。各人が自己の金融資産を増やすことについては、それでホントに幸せになれるのかという疑問はありますが、欲望を否定して禁欲を強いるのはかえってマイナスとなりますので、保留とします。大事なのは、世界の金融資産総量コントロールです。モノの在庫でも、生産能力の拡大によって供給過剰となった時点が転換点になりました。金融資産も同様ですが、現在のマネーはドルも円もユーロも元も金兌換制を敷いていない点において全て仮想通貨であり、供給量に物理的な制約がありません。ですから、資産量コントロールによって流れを止めないことが重要になるのです。

どうやってコントロールするのかというと、これまでは金利の上げ下げと税金でコントロールすることが中心であったように思います。日本経済が長らく患ってきたデフレはお金の流れが滞ることですから、金利の上下だけでは制御しきれなかったことがうかがえます。金利は在庫量の大小で決まるので、マイナス金利でも効果は薄かったようです。消費税はお金を使えば使うほど資産がマイナスになりますから流れをつくる意味では逆効果です。さて、どうするか、と悩んでいたら、かつて銀行で融資を担当していた妻が、「電子マネーのポイントは使えば使うほど増えるわよ」とポツリ。なるほど、多くの電子マネーはお金を使うとポイントがつくシステムを導入しています。マイナス消費税とでも称すべき大きな発想転換です。

さらに電子マネーになれば、使用期限を定める等自在なコントロールが可能になります。そして、そのコントロール技術の核になるのが、「流れを止めない適正在庫」なのです。

 

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