第16回(通算74回)「流れを止めない適正在庫2.0」の定義 

 

 

【生命を新しく定義してみます】

宇宙ステーションでの新薬開発の為の実験動物を供給するビジネスを展開している方に、「生命とは何ですか」と尋ねました。

宇宙という科学技術のフロンティア現場では、どんな生命観をお持ちなのかを知りたかったからです。また、実験動物を生産するためにはクローン技術や遺伝子操作など、生命科学のフロンティアにも近く、更には実験後の処分の問題など、生命倫理の境界付近にもいらっしゃるだろうと思ったからです。

回答は「科学的な定義は、自己増殖するものということになっています」ということでした。

その場では、なるほどと納得したのですが、後になって、それではロボットに製造されるロボットは既に生命と言えてしまうのではないかと、さらに疑問が深まりました。人工物は除外するという条件を付け加えると、動植物の人工交配にはじまり、クローンや遺伝子操作までのどの段階から人工物であるという線引きをするのかという問題が生まれてしまい、疑問は疑問を生みどんどん深みに入ってしまいました。

質問をしたのはあるパーティの場であったのですが、ほろ酔い気分での帰宅電車の中で、ふと思いついたのが次の新定義です。

【循環しながら続いていくもの】

植物も動物も、子孫を残して生命が継続していきます。そしてその違いは何かというと、循環サイクルの長さにしか過ぎないのではないかと考えたわけです。つまり、人間のサイクルは80年位で犬だと12年、ゾウなら150年でしょうか。身近な植物の多くは1年サイクルですが、樹木だと何百年になることもあります。

この考えを上下方向に拡張して、ビッグバンからの数百億年サイクルで循環するのが物質生命で、霊的生命すなわち魂も輪廻転生しながら循環すると考えると、とても素敵なことになります。

そして、植物より動物の方が高級で、その中でも人類は最も偉いなんていう価値観が根拠を失います。その違いは単なる循環サイクルの長さの大小ということになるからです。植物実験は許されるけど動物実験は駄目、特に高等動物は絶対駄目という価値判断問題の延長に現れるマイノリティやコミュニティの内外(うちそと)問題などにも影響を与えることになり、震源がとても深い地震のような定義と言えます。また、遺伝子組み換え食品を避けるべき理由は、生命操作を悪とする倫理観からではなく、安全性の検証が不十分だからであるとすべきという見解も導かれることになります。

ここでも、流れを止めない適正在庫の理論の出番となります。つまり、循環しながら続いていくという“流れ”の定量化技術が活きてくるからです。

【競争の意義を再定義してみます】

競争するということについて考えてみると、生命は生存競争を繰り広げており、いま生きているということはその競争に負けないで生き残ってきたという事を意味していますし、企業間競争によって品質向上・生産性向上が進んだおかげで、今日の我々は豊かな生活を享受しているわけですから、自分をめぐる男たちの争いを嘆いて井戸に身を投げた”真間の手児奈”のように、競争自体を悪と考えるべきではありません。

とすると、「他人の競争」から利益を得る人々の存在を問題視する必要があるように思えます。なぜならそういう存在は自己の利益のために必要のない競争を助長することになるからです。競争を争いごとととらえると、軍需産業はその代表格と言っていいでしょう。販売競争を飯の種とするのは広告業界ではないかと思います。さらに広告収入に依存するメディア業界も仲間ということになります。

私は現場改善コンサルもやりますが、作業方法を改善して省力化をすすめて人件費節減でコスト削減し、売価低減によってライバル会社に勝つというというのはNGだけど、作業改善によって現場作業者を楽にして職場環境を良くしようというのはOKになるのかもしれません。

また、企業間競争による生産性向上の意味は、全世界の供給能力と需要量の逆転によって変わってしまいます。モノ不足の時代は競争による生産能力拡大が善でしたが、モノ余りの時代になると競争はライバルの蹴落としや、不要なモノを売りつけるマーケティングとして、マイナス側面が拡大するからです。

そしてここでも、需給バランスの局所的な偏りを測定する、流れを止めない適正在庫理論の登場となります。

【「適正在庫」の定義を再掲します】

 

本掲載の第9回で示した定義を、少し変えて再掲します。
<流れを止めない適正在庫2.0の定義>

モノの流れを止めない為に、サプライチェーン上の各点で最小限保有すべき在庫量。

※各時点で適正性在庫を保有した結果実現される在庫水準を適正平均在庫と称する。

この新定義によって、多すぎず少なすぎずという2軸判断から、流れを止めないという1軸に統一されたことで、在庫管理業務のダブルバインド状態が解決したのですが、もう1つ重要な内容が含まれています。

それは、“各点で”という表現に示されるように、適正在庫は時々刻々変化するという新概念です。つまり、出庫時刻の直前に出庫数だけ入庫されることを理想状態とする新しい考え方に基づく適正在庫になります。現実には出庫時刻も出庫数も事前にわかることがありませんから、その誤差を吸収する安全在庫が必要になります。

そして、必要とされる安全在庫数は入出庫の都度更新計算される必要があるということになりますから、コンピュータによる自動計算が必須となるのです。

 

月刊工場管理連載「適正在庫の広場」  勝呂隆男
http://www.tscinc.co.jp

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