第10回 お休みオークション

今年はじめに改名しました。といっても氏名ではなく会社名ですが。TSCコンサルティングからテクニカルソリューションズに社名変更しました。その理由は、コンサルタント事務所で発足した会社がソフトウェア企業へと脱皮したことが第一ですが、設立10年を超えて、経営理念を見直すことにしたからです。新しい経営理念はこうです。

 

<経営理念>

幸せづくりに貢献する技術を開発し、世に広める

 

単に技術を開発するだけでなく、その技術を世の中に広めることで世界の幸せ総量を増やすことに貢献しようという考えです。技術を開発するだけでは技術者がハッピーになるだけで終わりですが、それをちゃんと世の中に普及させるところまで責任をもって遂行しようと決心したわけです。

もともと、適正在庫算出技術によって生産管理業務負荷を軽くすることで、現場の担当者をハッピーにしたいという志がありました。そこに新しい技術の芽が加わりました。『お休みオークション』です。

お休みオークションとは、レストランやショップあるいは病院や鉄道会社などのように交代勤務をしている会社のシフト計画を、簡単にかつ公平に作成する技術で、その仕組みはこうです。

毎月スタッフに持ち点が与えられます。スタッフはたとえば持ち点100点から、来月休みをとりたい日に点数を掛けます。2月14日のバレンタインデーにどうしてもお休みしたい人はその日に90点を掛けて、2月3日や24日は休めなくてもいいのであればその日に1点とか2点を掛けるのです。同じ日にお休み希望者が集中して競合が生じた場合は、掛けた点数の多い人がお休みを獲得します。先月無遅刻無欠勤だったスタッフは翌月の持ち点にボーナス点が追加され、無断欠勤をしたスタッフにはペナルティが課せられるルールや、お誕生月のスタッフには特別ボーナスを与えるなどのオプションも可能です。もし希望が叶わなくてもその理由がわかりやすいので、公正で納得性の高い方式といえます。

このアイデアは、昨年秋に千葉県の館山でサーフィンをしているときに突然ひらめいたのですが、あちこちで話をすると多くの方々から「そりゃいい」と興味を示され、ぜひそのようなお休みの決め方を世の中に広めてほしいとリクエストをたくさんいただきました。

もともとが、いつも行っている美容室の美容師さんが「休みをとりたい日に休めないから、デートの約束もできないし、好きなアーティストのライヴにも行けない」と嘆いていたのを聞いて、頭の片隅に課題としてセットしておいたのがはじまりです。それがサーフィンしているときにスパークして生まれたアイデアです。美容室だけでなく、レストランやショップの店員さんやセラピストの方々など、身近な知り合いからも圧倒的な支持をいただきました。

さらに、JR東日本向けシフトスケジューリングシステムの最適化エンジンを開発した数理システムからは、最適化計算結果と同様の計画が得られるだろうとの評価をいただき、生産コンサルタントのジット経営研究所の古谷社長からは、交代勤務の工場に使えそうだとの見解が示されました。

また、先行例をスケジューリング学会やOR学会、経営工学会の研究事例から調べても見つからず、特許事務所に相談して特許について調べてもらうと、先行技術がないので特許として成立する可能性が高いとの判断を得ました。さらに特許侵害の発見が容易であるので、強力な特許になるとのことでした。

生産スケジューリングとシフトスケジューリングと分野は違えども、生産スケジューリングソフトでは大手の、アスプローバ高橋社長に相談したところ、絶対儲からないからやめた方がいいと強く助言いただきました。昔かなり真剣に検討したけど、この分野は儲からないとの結論に達したのだそうです。

この言を聞いて筆者は逆に意を強くしました。なぜなら本当に画期的な技術というのは、先行者から徹底的に否定されるということを経験的に知っていたからです。筆者は大手メーカー研究所での研究開発経験により、先輩や上司から強く否定された新技術の方が成功することを知っていました。だから、逆に「これはいける!」と考えたのです。

適正在庫算出技術APIMも、はじめはこんな感じでした。お休みオークションも、いずれは皆さんに身近な技術となることでしょう。

第9回 今さらですが、、、適正在庫とは何か?

 

|適正在庫とは「何か」

今さらですが、この連載のタイトルである「適正在庫」とは何かについて、きちんと説明をしようと思います。生産管理の世界で適正在庫という考え方を広めてきた者として、この言葉の定義をきちんと定めて世の中に知らしめる責任があると思ったからです。

生産管理用語としての適正在庫は、新聞・雑誌の経済欄などで目にする適正在庫とは少し意味が異なります。経済用語としての適正在庫には、一般的な言葉として、経営者やエコノミストが適正と考える在庫水準といった意味があるようです。しかし、この言葉を生産管理の専門用語として使うときには、次に示す定義があるということを押さえておかなくてはなりません。

 

|適正在庫の定義

欠品を防止しながら在庫を減らせる限界値。
平均在庫として示される。

|注意すべき2つの点

欠品防止と在庫削減はよくおわかりだと思いますが、平均在庫というところが理解しにくいのではないかと思います。在庫という言葉が出てきたら、注意しなくてはならない点が2つあります。

1つは、いつの時点の在庫かということ。在庫数・在庫量はつねに変動しています。モノが出荷されれば減るし、入荷されれば増えます。ですから、在庫が多いか少ないかについて議論するときには、いつの時点の在庫を見て判断するのかを決めておかなくてはなりません。

財務的には会計年度の期末在庫金額が問題になるので、マネジメントサイドからは期末在庫の最少化を求められることが多いようです。しかしだからといって、押し込み販売をしたり、出荷時期を調整して洋上在庫化したりすることで在庫を少なく見せかけるようなことはおすすめできません。

生産・在庫管理の健全さを測るためには、平均的な在庫水準である平均在庫で見る必要があります。これは、毎日の在庫数をカウントしてその平均値を計算して求めます。生産管理・在庫管理の実力を測定するには、この値が最も適しているといえます。

 

もう1つの注意点は、どんな種類の値かということです。いくつあったか、あるのかを数えた測定値は別として、発注点や安全在庫のような基準値と、理論在庫や未来在庫のような予測値の2つの種類の在庫を分けて考える必要があります。

基準値というのは、発注のトリガーとなる発注点や発注量計算式の中の項として現れる安全在庫のように、発注行為のよりどころとして使われるパラメータの数値です。予測値は言葉通りの意味で、理論在庫は所定の在庫管理を実施した時の平均在庫の予測値であり、未来在庫は出荷予測と入荷計画の差し引き計算で求められる将来時点での在庫数の予測値です。

 

ここまでの説明で、もうおわかりかと思いますが、適正在庫というのは、時点でいうと平均在庫であり、種類でいうと予測値ということになります。欠品を防止して、なおかつ在庫量が最少になるような適正な在庫管理を実施したときに実現することが予想される平均在庫ということです。最適な在庫管理を実施したときの理論在庫であるといってもいいでしょう。そしてこの値を求めるための、適正在庫の計算式は次のように簡単なものです。

 

|適正在庫=安全在庫+サイクル在庫

安全在庫は、発注点方式の安全在庫、定期発注方式の安全在庫、定期補充方式の安全在庫をそれぞれ用のAPIM関数を使うことで求めることができます。

サイクル在庫は、発注点方式の場合は固定発注量の2分の1、定期発注方式と定期補充方式の場合は、期間平均需要量の2分の1で求めることができます。

このようにして求められる適正在庫の値をどう使うか。筆者の経験では、現状在庫数の評価のために使う場合が一番多く、次いで在庫削減活動の目標値として使う場合が多いようです。自分の会社の在庫がどの程度多いのか少ないのか判断がつかないというところは意外に多く、こういうところには大いに役立っています。本当に適正な在庫であるかどうかは、他社がどうしているかから求める業界平均値などではわからないからです。

また、基準値ないしは参考値として使う場合もあります。これは生産計画を立案する際に、適正在庫に落ち着くように投入量を調整するというケースで、生産能力や歩留まりの制約があって機械的に計画を策定できないので、ベテランが鉛筆なめながら考える場合です。こんな場合でも、適正在庫がわかると計画づくりが大変楽になります。

 

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適正在庫のパイオニア|勝呂隆男(すぐろ たかお)

◼︎資格
文部省科学大臣 技術士(経営工学部門 39376)
経済産業大臣登録 中小企業診断士(現在休業中)
DETAILED WORK-FACTOR (SMC)

◼︎公職・所属
(1999-2005)   早稲田大学 招聘講師
(1999-)      中小企業大学校 講師
(1999-2000)   職業能力開発総合大学校 非常勤講師
(2004)    東京工業大学 招聘講師
(2004-2005)  経済産業省 戦略的基盤技術力強化事業中間評価委員
(2014-)               経済産業省委託 日本ロジスティクスシステム協会事業
「次世代物流システム構築事業」コンソーシアム委員


 

 

 

 

 

 

第8回 オランダ人SCMスタッフとのバトルの成果

最近、オランダ人SCMスタッフ向けにAPIM導入コンサル(というよりもバトルでしたが)を、TV会議システムを使って実施したのだが、実に面白くて、こちらが逆に得たことも多かったので紹介したいと思う。話は、在庫理論とSCMの基礎文献として紹介したスミチ・レビとシルバーの次の専門書から始まる。

“Designing & Managing THE Supply Chain”(David Simch-Levi他, MacGRAW-HILL)

“Inventory Management and Production Planning and Scheduling”(Edward A. Silver他, John Wiley & Sons. Inc.)

実は、この2つの文献で共通して引用されている論文があり、それはエッペンという研究者が書いた次のようなものである。

“DETERMINING SAFETY STOCK IN THE PRESENCE OF STOCHASTIC LEAD TIME AND DEMAND”(GARY D. EPPEN AND R.KIPP MARTIN, Graduate School of Business, University of Chicago, MANAGEMENT SCIENCE Vol. 34, No.11, November 1988)

この論文に、リードタイム変動を考慮した安全在庫算出式が提案されおり、その計算式を米国のSCMソリューションベンダーであるi社が使っていることがわかっていた。なぜわかっていたかというと、日本のP社(当時はM社といっていたが)の技術者が、私の著書の読者として「i社から提案された安全在庫算出式のディメンジョンチェックをするとおかしいのだけれど、どう思うか?」と相談してきたことがあったからである。

エッペンの論文についてはさらに、”An Introduction to Probability Theory and Its Applications”(WILLIAM FELLER, New York John Wiley&Sons.Inc. 1960)という半世紀も前の数学書の章末で、証明の練習問題としてあげられていた計算式を使っていたことまで突き止めていたので、即座に「それは実用的な安全在庫を計算するためには使えない」と回答した。

なぜならば、エッペンの論文までは「もしも、リードタイム中需要量の確率分布が正規分布に従うとしたら」という前提条件のもとでの計算式だったからである。需要量とリードタイムの両方が正規分布に従うとしても、リードタイム中需要量は正規分布に従わないことが過去の研究により証明されているので(『在庫管理入門』水野幸男著、日本科学技術連盟 P.156)、この前提は純粋な研究論文のための非現実的な条件だったのである。

エッペンまではきちんと前提条件を示していたのだが、スミチ・レビやシルバーはそれを示さずに、書籍に計算式だけを引用していたのだ。おそらくi社はエッペン論文までさかのぼらずに盲目的に計算式を引用したのだと考えられた。

残念なことに、P社では私に相談を持ちかけた技術者の意見は受け入れられず、i社の提案するソリューションを導入し……。ご想像通りの結果となったようである。蛇足ながら、リードタイムが変動する場合の安全在庫は、APIMでなら正しく計算することができるのだが…。

上記の話を日本ですると、P社の事例には関心を持たれても、肝心の技術内容についてはチンプンカンプンという方が多いのだが、オランダ人は他社事例などよりも技術の詳細に深く関心を示してくれた。そして、リードタイム変動だけでなく、発注サイクル変動にまで議論が進展したのだ。

適正在庫算出の構成要素であるサイクル在庫を計算するには、発注サイクル中の平均需要がわからなくてはならないのだが、発注サイクルが変動すると、それがわからなくなるのだと彼らは言う。平均リードタイムと平均需要の積にはならないからである。

その瞬間、私の中でヒラメキが起こり、変動発注サイクル中平均需要の計算アルゴリズムがわかってしまった。変動リードタイム対応のAPIM関数を使って、簡単に求めることが可能だったのだ。

そしてさらにさらに、この変動期間中平均需要量算出アルゴリズムの発見が契機となって、APIM技術の長年の懸案であったある問題が完璧に解決したのである。その懸案というのは「バラツキのないリードタイムを、より短いリードタイムの発生も含めた離散分布に置き換えて、発注点方式の安全在庫を算出すると、逆に大きくなることがある」というパラドックスであった。

これが解決したのである。このブレークスルーにより、APIM技術は適正在庫算出技術としてはほぼ完成の域に達したと言ってもいいと思われた。

これは、優秀な人と議論すると必ず得るものがあるという好例で、私はこれだけでオランダ人スタッフが大好きになってしまった。

この成果はAPIMユーザーにはただちに提供予定です。乞うご期待。

第7回 神はサイコロを振るか?

アインシュタインは「神はサイコロを振らない」と言ったそうだが、世界の現象の多くはサイコロが振られて決まっているように見える。確率論的世界観である。

適正在庫の理論も、需要変動や供給変動を確率現象としてとらえることで成り立っている。世の中のさまざまな出来事を確率現象としてとらえる確率論的世界観というのは、極論すれば「神はサイコロしか振らない」である。

そして、そのサイコロがどんな形状をしていてどんな目の出し方をするのかを、サンプルデータから推測しようとするのが統計学である。統計学では、現実の世界の出来事をサンプルであるとして、そのサンプルから神の世界の真の姿を推測しようとするのである(厳密には推測統計学といい、単純にデータを集計するのは記述統計学という)。

APIMで適正在庫を計算するときに用いる需要データは、いつのデータであるかによって特性が異なる。特にここ数年は、リーマンショックあり震災ショックありで、市場が大きく変動して需要も乱高下を繰り返した。そのため、APIMユーザーはいつ頃のデータをどれだけの期間集めればいいのかに悩むことが多い。

そんなとき、いつもお見せするのが図1のグラフである。

このグラフは、ある照明製品の販売実績データから、平均と標準偏差と変動係数を計算して、その月別推移を示したものである。販売数の平均値は、11~12月にピークを示しているが、標準偏差の値はそれほど大きなピークを示していない。さらに、標準偏差を平均で割った値である変動係数は、ほぼ年間一定である。

需要が乱高下しているときでも、日別販売数の平均は大きく振れても、そのバラツキそのものである標準偏差の値はそれほど大きく振れることはなく、さらに変動係数に至っては、安定した動きを見せることが経験的に確認されている。ここに示したグラフのデータだけでなく、最近のリーマンショック前後や震災ショック前後のデータからも、同様の傾向を示す需要実績データのあることが確認されている。

このような現象は、統計学の言葉でいうと「需要の確率分布の形状は変化しないが、確率変数軸方向にスライドしている」とでもいうべきものである。さらに、神のサイコロの比喩を使って説明すると、こういうことだ。つまり、神の振るサイコロは同じものだが、神様はときとしてサイコロを増やしたり減らしたりするのだと。

というわけで、APIM導入に際しては過去需要のトレンドを中長期にわたって分析してから、ターゲット期間を決めて、実績データの収集をすることになる。需要の安定している商品は短期間のデータで十分であるが、乱高下の大きな商品は中長期間にわたるデータ収集が必要となることになる。

中長期のデータをみていると、明らかにトレンドが変わる時点が存在する。それも確率分布そのものが異なる分布に変容したのではないかとみなされる点だ。これまで、それはグラフを目でみて判断していたのであるが、その見極め方法を専門的に研究する人がいた。この連載の第3回で紹介した、神楽坂SCMサミットのメンバーである竹之内隆氏(カイゼン本舗)である。彼は需要予測の新しい技術として、研究開発を進めているそうである。潮目の変化が起こっている期間をインパルス・ゾーンといい、変化そのものをトレンド・トラップという。さらに、トレンド・トラップは、エアポケット・トラップ、Vトラップ、サイクル・トラップの3パターンに類型化されて研究されている。

APIMユーザーにとっては、適正在庫算出時に用いる過去データ期間の選定に使えるだけでなく、インパルス・ゾーンに入ったことを検知した時点で在庫基準値の見直しを行えばよくなるので、より精度の高い生産・在庫管理を実行することができるようになる。

竹之内氏とは、今後もさらなる連携を進めていくことにしている。神楽坂SCMサミットで目指している生産管理技術の革命も、着々と進行しているのである。

第6回 押してもだめなら引いてみな!

先月に引き続き、再び一品別管理の重要性にまつわるお話をしたい。

昨年末に在庫削減の相談を受けて訪問したA社で、適正在庫算出システムAPIMを最近導入したところとしてX社の名前を出した瞬間、激しい反応があった。「X社が在庫削減なんて100年早い!!!」と。

A社では資材調達部門と生産管理部門が中心になって在庫削減プロジェクトが組織され、そのメンバーの方々向けにお話をしに行ったのであるが、彼らはX社の納期遅れにはほとほと手を焼いているのだという。

どうもA社では、在庫適正化=在庫削減、と誤解している節もあるのだが、あまりにも激しい反応だったのでびっくりしてしまった。そして、同時に、X社の社長の言葉を思い起こすことになった。

社長の言葉というのはこうだ。「俺は在庫削減なんてする必要はないと思っている!」X社は銀行をはじめとする取引先やアナリスト達から過剰在庫を指摘されていたのであるが、社長は頑として在庫削減活動にゴーサインを出さなかった。

在庫削減ではなく在庫適正化だと説明し、事前に実施した適正在庫試算結果を示したうえで、在庫を増やす品目と減らす品目の両方があるのだから決して在庫削減だけが目的でないと理解していただき、ようやくAPIM導入が決まったいきさつがあったのである。つまり、社長は顧客の立場で判断していたのだ。「顧客への納期も守れないで在庫削減なんて早すぎる」と。

X社ではその後、一品別に製品在庫の適正値を算出して、それを基準値にして在庫適正化活動を進めている。在庫を積み増す品目と削減する品目は相半ばしており、トータルで在庫削減が達成される見込みである。APIMで適正在庫を算出する際には、生産リードタイムの日数分布を用いるのであるが、調べてみると、確かに生産リードタイムの振れは大きく納期遅れも頻発していた。

APIMでは適正在庫を2段階で設定する。まずは現状の実力に応じた適正在庫。リードタイムや納期遵守率、歩留まり変動など、現場の実力相応の適正在庫である。リードタイム短縮や納期遵守率向上などの改善活動をすることで、実現できる在庫水準は次の段階の適正在庫となる。それゆえ、第1段階として現状の生産リードタイムを前提とした適正在庫基準値を設定したのであるが、それでも大きな在庫削減効果が見込まれた。

工場では、何が起こったか?当初、適正在庫を設定すること自体に大きな疑問が示された。うちは生産遅れが常態化しているから、理論値なんて役に立たないと。これは、リードタイムが変動することを前提に適正在庫を算出するAPIMの実行結果を見せることで納得してもらえた。確かに現場感覚に近い適正値が得られると。しかし、生産計画の策定に適正在庫基準値を、なかなか用いようとしないのである。

それはなぜか?生産予算の達成を最優先しているからである。しかも、生産予算は常に生産能力を上回る値で設定されている。顧客への納期遅れの解決策として、どんどんつくらせる必要があるとの経営判断があるからだ。さらに悪いことに生産予算は総枠設定で一品別設定ではない。

その結果何が起こるかというと、つくりやすいモノからつくっていくという現象である。まさに先月号で述べた、減らしやすいAランク品目から在庫を減らそうとして欠品と過剰在庫の同時発生を招いている現象と同じことが起こっていたのである。つくりやすい品目で生産予算達成を目指す結果、在庫が不足していて本当に必要な品目の生産よりも、在庫は余っているのにつくりやすくて生産高を稼ぎやすい品目の生産が優先されることになる。あるいは、必要量以上にまとめ生産をして生産高を稼ぐという現象が起こっていたのである。

以上の問題点がわかり、本社スタッフが懸命に改革を進めている途中段階で、A社とのいきさつがあったのである。けれども、X社では改善の成果が出始めており、おそらくあと半年もすれば、A社の資材担当者もびっくりするくらい納期改善が達成される可能性が見えてきた。

この事例で学ぶべき教訓は、先月に引き続き一品別管理の重要性が挙げられるが、それだけでなく、「押してもだめなら引いてみな」ということもある。つまり、工場に過剰な生産ノルマを課して押し出そうとするよりも、適正在庫を間にかませて市場からの引っ張りに応じた生産を行うことの重要性である。

つくりたいモノをつくるのではなく、売れるモノをつくるというごくごく当たり前の原則に、すべては行き着くのである。