第8回(通算66回)循環棚卸は毎朝のあいさつみたいなものです

【これが日本の最先端の近所付き合いです】

まずは、ネットで拾った昨秋の神戸新聞夕刊の記事をご覧ください。

「理解に苦しんでいます

住んでいるマンションの管理組合理事をやっているのですが、先日の住民総会で、小学生の親御さんから提案がありました。「知らない人にあいさつされたら逃げるように教えているので、マンション内ではあいさつをしないように決めてください」。子どもにはどの人がマンションの人かどうかは判断できない。教育上困ります、とも。すると、年配の方から「あいさつをしてもあいさつが返ってこないので気分が悪かった。お互いにやめましょう」と、意見が一致してしまいました。その告知を出すのですが、世の中変わったな、と理解に苦しんでいます。(神戸・西、自営、男、56)」

 

私は、投稿者と同性で年齢が近いこともあるのでしょうか、かなり共感してしまいました。また、若い頃には工場の製造現場で、まずはあいさつからと徹底的に躾けていただきましたので、工場管理の読者の皆さんとも価値観の共有はできると思います。

ところで、そもそも、あいさつや礼儀、マナーというものは、プロコトル(外交典礼もしくは通信手順)としての側面を持っているので、特に頑張って真心を込めなくても、カタチさえ間違えなければ最低限度の良好な人間関係を保てるというとても便利なツールではないか、とパーティでご一緒したマナーコンサルタントの方に申し上げたら、「いいえ、こころを込めることが大切なんです」と激怒されたことがあります(笑)

でも、あいさつの基本というのはこんなものではないかと思います。お互いに相手に対して「私はあなたに敵意を持っていませんので攻撃をすることはありません」ということを表明するというコミュニケーションツールであり、これを交わすことでお互いの安全が確保されるわけです。

そういう意味で、子どもの安全のためにあいさつをさせないというのは逆効果ではないかと思います。

【五反田と葉山】

この二つの街は、私の仕事場があるところですが、共通点が「あいさつ」に関係しています。五反田は東京都品川区にある「東の五反田、西の西中島」と評されているベンチャー企業の聖地として知られつつある元気のあるオフィス街です。我が社の本社機能と営業・広報機能を置いています。葉山には研究所を設置して、技術開発と執筆活動を行っています。どちらも、あいさつがよく交わされる街であることが共通点としてあげられるのです。

葉山は「知らない人でも知ってる人でも、街中で顔を合わせたら、まずはあいさつする」がデフォルトになっています。小さな街なので、よく知人・友人とばったり会うことが多いのですが、ときどきどなただったっけということがあり、面倒くさくなったので無条件に挨拶するようになりました。

最初はそうした形式的なお声がけだったのに、それがきっかけで、通りで会話するようなったりします。若い女性から笑顔であいさつを返されたりすると、もうそれだけで2,3日は幸せな気分が持続します(笑)。お互い安心を得られることもあり、あいさつっていいなって思えます。

五反田は都会ですので、見知らぬ方と通りであいさつすることはあまりありませんが、宅配便や郵便の配達員の方々とは顔見知りでよくお互いに声を掛け合っています。おまわりさんや、子供たちを散歩させている地元の保育園の保母さん保父さんともよくあいさつを交わします。カフェやランチでお世話になっている店員さん、あるいはコンビニ店員さんも顔見知りになっていて、お店でも通りでもよくお話しします。先日などは、ド・トール店員の田中さんと久しぶりに銀行で再開して、お互いの安否を確認してしまいました。タバコをやめて喫煙ルームに行かなくなったせいか、しばらくお会いしておらず、互いに心配していたのでした。

そして、もう一つの大切な共通点は、街に活気が溢れていて、道行く人々の表情が明るいこと。その結果、そこに身を置くことでやる気が湧いて仕事もバリバリ進むことです。

【モノにも声を掛けてあげよう】

心を込めて、モノづくりをしているときは、手がけているモノに心の中で自然と声を掛けていることが多いと思います。作っている最中は心を掛けていても、出来上がった後に忘れ去られてしまい行き先も決まらず放置されているモノが不動在庫です。

自工場に放置されている在庫品はありませんか?

定期的に現場を廻って在庫に声を掛けてあげよう、あいさつをしよう!というのが、実は循環棚卸です。在庫はそれ自体が悪いのではなく、きちんと適正管理されていないことが悪なのです。なので、まずは、どこにどれだけ在庫があるのかを把握すること、つまり棚卸を定期的に行うことが大切なわけで、毎朝のあいさつが大切なわけです。

ここで、

毎朝の=>定期的に

顔を合わせてあいさつ=>現物を確認

というようにご理解ください。在庫管理では、在庫数量が時間の経過とともにどう増減しているかを把握することが大事なので、「定期的に」というのが重要になるのです。それから、「現物を確認」というのも、パソコンの画面でデータだけを見るのではなく、現場に足を運んで自分の目で見て確認しましょうということです。

適正在庫管理も、最初から難しく考えずに、まずは棚卸をするところから始めるとよいと思います。

第7回(通算65回)投資利益率のバブルと在庫削減効果

【資金の時間的価値】

昨年末の九州出張の帰りに、JR-JALと乗り継いだのですがちょっとしたアクシデントがありました。JRで宮崎空港駅まで行き、そこからJAL便で羽田に帰る予定でチケットを予約していたのですが、ダイヤ遅延の影響で列車が一駅手前の南宮崎駅で折り返してしまうことになってしまったのです。

車内アナウンスがあったのが南宮崎駅到着のわずか10分前。そして宮崎空港駅まで行く人は次の列車に乗り換えるようにというアナウンスも併せてあったのですが、次の電車も遅れていました。

仕方なく、タクシーに乗ることにしました。

南宮崎駅の改札では、乗客と駅員の口論が既に始まっていましたが、それを横目にタクシー乗り場まで急ぐと行列の2番目に並ぶことができました。しかし、タクシーがなかなか来ないのです。空港まで行こうという人の行列が後ろにどんどん延びていきました。ふと思いつき、先頭の方に割り勘での相乗りをお願いしたところご快諾いただき、3番目、4番目の方とも同乗することになりました。4人の予約していた航空便はそれぞれ違っていたのですが、いちばんギリギリだった方はタクシーの中で時計とにらめっこでやきもきでしたが、結局全員間に合ってよかったという顛末に終わりました(笑)。

この一件で頭を去来したのが「期限の価値」という考えです。予約済みの航空券は、タクシーの中で間に合う希望があるうちは数万円の価値を持っていますが、乗り遅れが確定した瞬間に紙くずと化してしまいます。これを更に「資金の時間的価値」と拡張して考えると、12月26日に恋人に手渡すクリスマスプレゼントや、親の命を救うのに間に合わなかった特効薬など、具体的な事例はたくさんありそうです。

【利息計算と自然対数の底”e”】

資金の時間的価値は、本来であれば期限の損失・利益も含む形で考えなければならないところですが、現状では預け入れ/借り入れ期間の長さによって決まる利息として把握されているようです。この利息計算の方法は、先々号でも紹介したように、とても堅実に行われています。コンピュータの無かった時代には、利息計算を正しく早く行うことはとても大変なことで、この能力が金融業者の資格だったのではないかと思えるほどです。世の科学者・数学者も、その計算方法を研究していたのですが、17世紀の数学者のヤコブ・ベルヌーイが複利計算に関する大きな発見をしました。それが、自然対数の底eとなるものです。そもそもは利息計算の方法の研究から生まれた発見ですが、今では自然科学の世界で大きな貢献をしていることは、周知のことと思います。

ヤコブ・ベルヌーイによるeの定義は以下となります。

(式省略)

元金1を年利1、付利期間を1/n年で1年預金すれば、1/n年ごとに利子1/nで元利合計が増えていき、1年経つと左辺の式になる。n→∞とした極限は連続複利の元利合計となる。ということを意味する利息計算の近似式と考えられます。

連続複利というのは、複利計算期間(ここでは付利期間)を無限に小さくするという極限の考え方に基づく概念です。ちなみに、nの値を1とおいて、元金1億円の1年後の元利合計を年利10%で計算すると、eを使った近似式では約1億1千51万円となり、きちんと計算した結果の1億1千万円に対して51万円ほど多めの額となります。率にすると0.5%ということになります。

この近似誤差はnを大きくすると小さくなるもので、n=12つまり1ヶ月複利ではわずか3,500円ほどまで縮小されます。定期預金や株の配当などの多くはn=2、つまり半年複利ですが、この場合の誤差は約12万7千円、率にして0.13%です。金利の世界の数値としては無視できない大きさと思われます。

この連続複利という想定は現実にはあり得ない架空のものであったはずなのですが、どうもこれを根拠とする金融商品の価格付けが行われているのではという疑いを否定できません。なぜかというと、デリバティブなどの金融商品の価格付けの理論的根拠とされる「ブラック・ショールズ方程式」を満足させる債権の価格算定式が、(省略)と導出されているからです。 と、いうことは金融商品の価格付け、つまり資金の時間的価値の算出には連続複利が前提に置かれているのではないかと考えることも見当外れではないかと思えてきます。

近似計算誤差だけならまだしも、もし複利計算期間自体の取り違えだとすると事は重大です。近年の金融商品の価格付けには最初からバブルの要素が含まれていたということを意味するからです(この件、当初は該方程式の次元解析結果を示しての解説を予定していたのですが、変数を他の変数の組み合わせに置き換えることで様々な異論を立てられるようなのでやめにしています)。

【投資利益率のバブル】

読者の皆さんの中には、工場の設備投資提案をされたことのある方も多いと思います。大抵の投資提案書の様式には、基準となる投資利益率を満たすだけの、収益向上や原価低減の見込み額を記入することになります。○○億円投資したら、△年間にわたって毎年○△×□万円の利益増を見込まれます!というような計画を示すことになっているのではないかと思います。

この基準となる投資利益率決定の根拠となるのが「資金の時間的価値」なのですが、これがバブルであったのではないかというのがここまで述べてきた内容となります。つまり、金融業界における論理的なミスのせいで、お金そのものの価値が実態よりも高く設定されていたために、お金を使って実業を営んでいる企業、特に製造業は割を食っていたのではないかということになります。そして、在庫削減の経済効果についても、見直しが必要とされるように思います。

第6回(通算64回)受託生産(不確定受注生産)モデルの生産管理

【科学技術の進歩と社会の仕組み】

ソフトバンクの孫正義氏は、コンピュータとインターネットそしてスマホ(携帯電話)がこれだけ普及したのだから、ネットによる国民投票で直接民主主義が実現可能なのに、政治の仕組みが代議員制のままなのはヘンじゃないかとおっしゃっているそうです。社会の仕組みというのは、科学技術の進歩に一歩も二歩も遅れて変わっていくのではないかと思います。

身近なところでも、DNA鑑定技術により父子確認が確実になっているのに婚姻制度が旧態依然たるものであることが挙げられます。母親にとっては自分の生んだ子供が自分の子供であることは確実ですが、父親にとっては本当に自分の子供であるかどうかが不安(笑)ですから、結婚という法制度で女性を縛り付けて、あるいは経済的に男性に依存させることで、自分の子孫を残すことを確実にしようとしてきた側面が強いからです。昔の大奥やハーレムはその典型例といっていいでしょうし、現代の一妻一夫制もその部類に入ります。

現実に、SNSや通信技術の発達・普及により、恋愛ルールは既に変わりつつあるようです。恋人が世界のどこにいても、顔を見ながらの会話が出来るようになったことで遠距離恋愛が容易になった事と、警察力に頼らずに特定個人の居所が割り出せるようになった事で、「悪事その場限り」とでも言うべき悪行を重ねてきた人はFaceBookなどのSNSに顔写真付きで本名付登録することを、恐れ・ためらっているようですから(大笑)。

生産管理の仕組みにも同じようなことがいえて、月次生産管理やMRPあるいは製販会議・需給調整会議のような仕組みは、パソコンがこれだけ普及する前の時代の名残なのかもしれません。コンピュータがなかった時代には、生産計画の作成や、実績管理や進捗管理をするための事務作業に人手がかかり、月1回のPDCAサイクルで回していくのが精一杯だったからです。

MRPにしても、当初は大型コンピュータを普及させるためのアプリとして誕生した経緯もあり、昔は月に一回MRPを回すのがせいぜいでした。現代ではコンピュータパワーが強力になったことで、毎日MRPを回すことが可能で、実際そうしているところもあります。決算も昔は年一回だったものが、既に月次決算を行っている企業もあります。

このように、情報の回転速度は高速化しているのに、そのベースとなる仕事の仕組みが情報技術の未熟だった時代のままであるために、やらなくてもいいような無駄な仕事が残されていたり、逆にやらなくてはならない仕事の進め方がうまくいっていない事が多々あるのではないかと思います。

 

【受託生産モデルという発想】

日本の製造業の9割以上は受注生産と言われていますが、実際には正式な確定注文だけで生産が行われているわけではないことは、読者の皆さんがいちばんよくご存じだと思います。

発注後の仕様変更や数量変更はざらにありますし、内示を示されてもあまりあてにできないことが悩みの種となっているのではないでしょうか。

現実的な対応として、見込み生産と受注生産が混じり合った生産体制を苦労しながら運用しているのが実情ではないかと思います。その結果、見込み生産で作りすぎた分が過剰在庫になり、予測が外れて不足が生じそうになると特急生産になったり、最悪の場合欠品や納期遅れとなりお客様に迷惑をかける結果となります。

それならいっそのこと最初から不確定な受注情報を前提に生産管理の仕組みを考えようというのが「受託生産モデル」の発想です。受託生産とは不確定受注生産とでも言うべき生産形態で、ひと頃話題になったEMSはこのように称される用語ですが、私はこの言葉に次のような定義を与えて実践研究を進めています。

 

<受託生産モデルの定義>

不確定受注情報を基に生産計画を立案し、特定顧客に紐づけられた生産ロットを中心に運用する生産管理の仕組み

 

【適正在庫は過去実績だけから求める、は間違い】

このような不確定受注情報に基づく生産管理では、不確実性を吸収する安全在庫を適正に保有することが必要になります。適正在庫理論では、安全在庫を決定する不確実性ファクターを、「需要の不確実性」と「供給の不確実性」に分けてとらえます。需要変動、供給変動などと「変動」という言葉を使わずに「不確実性」という言葉を使うのは、変動とは過去実績から求められる値だからです。

つまり、安全在庫の値は過去実績だけからでなく、将来の計画値からも求めることができるのです。具体的には、次のようなデータを基に安全在庫の計算を行います。

①過去の延長で未来が決まる確率とその需給情報

②楽観的シナリオが実現する確率とその需給情報

③最も実現可能性の高いシナリオの実現確率とその需給情報

④悲観的シナリオが実現する確率とその需給情報

 

「勝呂君、君は(経営工学はまだ対象部門になっていないけど)ノーベル賞を目指して頑張りなさい」と言って社会に送り出してくれた故・古川光早稲田大学教授は、日本経営工学会会長就任に際しての出版物で、「経営工学の社会的役割とは科学技術の進歩を社会の仕組みに取り込んでいくことにある」と述べています。生産管理も大きな変革を迫られている時代なのだと思います。

第5回(通算63回)リードタイム(時間)の数え方

【銀行の利息計算における時間の数え方】

先月号で安全在庫を正しく計算するためにはリードタイムの数え方を新しくしなければならないと述べましたが、今月はそのことについて詳しく解説します。リードタイムというのは時間の長さのことですから、「時間の長さの数え方」と視点を拡げてお話しを進めていきます。

誰にでも関係する身近なところで説明することにして、銀行にお金を預けたときの利息計算について考えます。利息金額は預けた期間が長いほど高くなりますから、時間の長さの研究にはちょうどいいからです。

いちばん身近な普通預金の利息がどうやって計算されているのかを、正確に知っている人は少ないと思います。私は銀行各社や全国銀行協会に問い合わせてみました。すると驚くべき事実が分かりました。銀行では、既に在庫管理における新しい時間の長さの数え方をしていたのです。もっともはるか昔からやっている伝統的な方法ですので、新しい数え方というよりは昔からの正しい方法といったほうがいいかもしれません。それは次のような計算式となります。

 

利息=残高積数×年利率÷365

残高積数というのは、毎日毎日の締め時刻における預金残高の総和のことで、利息計算をする半年間の間の合計値を計算します。年利率を365日で割り算して、一日あたりの利率を求め、それを毎日毎日の残高に掛け算して一日あたりの利息とし、さらにその金額の半年間の合計が半年分の利息となるわけです。計算された利息金は半年に1回振り込まれて、増加した預金残高に対して次の半年間の利息が計算されるという複利計算となっているわけです。

ですから、お金を預けるときも借りるときも、金利が何パーセントかという数値だけでなく、残高の集計と複利計算をする期間の長さを正確に把握しておくことが必要なわけです。ちなみに、金利と残高集計期間が同じでも、複利計算期間によって利息は大きく異なります。

そしてここで注目すべき事は、残高集計と複利計算に用いる時間が、1日単位という飛び飛びの値であるという点です。システム上明確な日付と時刻が定められており、中間の値をとって1.5日とか0.5ヶ月という値にはならないということです。これが在庫管理の世界と同じになるわけです。

トリビアとして、銀行のシステム担当者のおっしゃったことによれば、毎日こまめに締め時刻直前に大金を入金して翌朝いちばんで引き出して…を繰り返すと利息を余計に稼げるのだということです。各銀行や海外との締め時刻の時差を利用して、よからぬ稼ぎをしている人はいるのかもしれませんね(笑)

 

【モノづくり業と金融業に共通する時間】

現在のような近代的な銀行が生まれたのは、17世紀ヨーロッパ、1694年のイングランド銀行が最初のようですが、その原型となる金貸し業はもっと古くからあったと思われます。シェイクスピアの「ベニスの商人」の初演は1605年ですから、おそらくそれよりずっと以前から高利貸しは営まれていたことでしょう。日本では鎌倉時代(12〜14世紀)には既に「土倉」という金融業者があったそうですから、世界的にはもっとはるか以前から金融業はあったと思われます。

近代的な製造業の成立は18世紀の産業革命以降となりますが、在庫の管理が必要となる「モノづくり業」は農業までさかのぼるとすれば、もっと古い事になると思います。人類が農耕生活を始めたのは3万年前ですから、はるか太古から在庫管理はされていたのでしょう。

どちらも、17世紀の近代科学成立以前から存在していた産業ということであり、そしてどちらも、時間の数え方が飛び飛びの値としてとらえられているということが共通点であることに気づきます。

 

【ニュートンのリンゴ】

ソニー創業者の井深大氏は、「デカルトとニュートンに始まる近代科学を乗り越えるパラダイムシフトを起こせ」という遺言を残されたそうです。

デカルトが「我思う、ゆえに我あり」と言って身体と心を分離し、ニュートンがリンゴの落ちるのを見て万有引力を発見し、さらに微分積分学の成立によって近代科学は幕をあけたわけですが、その基本に時間に対する考え方の暗黙の了解が生まれていたのではないかと思います。

つまり、宇宙全体にたった一つの連続的な時間が流れているという時間認識です。この時間論はアインシュタインの時空連続体仮説にまで発展して、今日の科学技術の基盤となっています。

ところが先月号で述べたように、在庫理論では連続時間ではなく離散時間(飛び飛びの値)でないと正しい安全在庫が求められないことが明らかとなり、冒頭で述べたように金融の世界でも飛び飛びの値で時間を考えて利息計算をしています。

在庫管理も金利計算も近代科学成立以前から行われていた業務ですから、もともと時間は飛び飛びの値として認識されていたのかもしれません。太陽が昇って沈み翌朝また昇るまでを1日とすることが人類の時間認識のはじまりであると考えると、時間とはやはり飛び飛びに進むものなのかもしれません。

私はこんな風に「時間とはそもそも何だろう」をずっと考え続けてきました。その過程でリードタイムが飛び飛びの値となることを発見して適正在庫理論が生まれたのですが、そこからまた科学上の時間論に戻り、今では「時間場の理論(工学的時間論)」の研究を進めています。ご興味のある方はぜひ検索してみてくださいませ。

第4回(通算62回)安全在庫の古典理論計算式は科学的な誤りでした

【公式を鵜呑みにしてはいけない】

数学や物理の受験勉強では、公式や定石をたくさん覚えて試験に臨んだ方が多いと思います。モノづくりや生産管理の世界にも公式・定石はたくさんありますが、これを鵜呑みにしてはいけません。なぜなら、そのようなテクニックができたときの前提条件が変わってしまったら、役に立たないどころか害悪にすらなることがあるからです。学校の試験では前提条件がきちんと決められていますが、現実のビジネスの世界は日々変化を続けており、誰も前提条件を保証して採点をしてくれるわけではないからです。

生産管理でよく使われる公式に、安全在庫計算式がありますが、最近、Yahoo!知恵袋からこんな回答要請がありました。

ID非公開さん 2016/8/2915:34:11

「適正在庫数と安全在庫数の求め方を教えてください。 全くわかりません。 いろいろ調べたところ、 適正在庫数の求め方

適正在庫数=その商品の1日あたりの平均売上数×発注から納入まで日数×安全率

安全在庫数の求め方

安全在庫量=安全係数×出庫量の標準偏差×√調達リードタイム

ここまではわかりました。 適正在庫数>安全在庫数 となるのはなぜでしょうか? 」

私はこの質問に対して、次のように回答しました。

「適正在庫の公式定義は以下の通りです。

適正在庫 = サイクル在庫 + ミニマム安全在庫

欠品防止のために決めたサービス率を必要最小限満足させるミニマム安全在庫を保有して所定の販売・需給・輸送ならびに在庫の管理方式をとったときに工場または販売拠点等が保有する適正な平均在庫のことである。

(『工場管理』誌2016年2月号にて告示・公開済)

適正在庫、安全在庫の間違った俗説に振り回されているようですが、問題意識をもったことは大変素晴らしいことです。 もっと勉強したかったら、私の名前で検索してみるといいでしょう。 ご健闘をお祈りします」

在庫理論は純粋に数学論理で構築されていますので 正誤は論理的に明らかにされるのですが、

最近、この手の質問に対する回答要請が多く、世の中には誤った俗説が溢れているように思えます。さながら、悪貨が束になって良貨を駆逐しようとしてるかのような感もあります。

 

【安全在庫計算式のディメンジョンチェック】

約半世紀前に生まれた「統計的安全在庫の理論」(安全在庫の古典理論)では、安全在庫計算式として次式を示しています。

安全在庫  ss=k√Tσ‥‥①

(k:安全係数、T:リードタイム、σ:需要標準偏差)

ここで、標準偏差は次のように計算されます。

標準偏差  (※数式表示不可のため、計算式省略)‥‥‥②

これを基に①式をディメンジョンチェックすると、

[N]=[√TN]‥‥‥‥‥‥‥③

(N:個数・回数、T:時間)

となり、左辺と右辺の単位が異なるために、この公式は論理的に誤りであると結論づけられます。

ディメンジョンチェックというのは、物理学者がよく使う手法であり、ある公式が導出されたときに左右両辺の単位を調べて左右で単位が一致するかどうかで、正しい公式かどうかを確認するものです。科学技術の基本中の基本となるものです。

【リードタイムの数え方を変えると】

以上に示したように、安全在庫の古典理論による計算式は科学的に誤りであったことが証明されてしまいました。半世紀以上にわたって定説とされ、大学でも教えられており、情報処理技術者試験など、国家試験資格などでも出題されていたものですから、かなりショッキングなことです。私も大学で学んだ計算式を何の疑いもなく受け入れて、日刊工業新聞社発行の自著でも解説していましたので責任を感じております。

幸いにも自著では、現代では使い物にならない理論式として批判的に扱っており、それを改良する理論としての適正在庫理論を紹介しておりました。

そしてこの理論では、特許にもなった新しい方式でリードタイムを数えます。この教え方に基づきディメンジョンチェックを行うと④式となり、科学的に正しい安全在庫計算式であることが確認されます。これでまずは、一安心です。

[N]=[N]‥‥‥‥‥‥‥‥‥④

この正しいリードタイムの数え方とは、1回、2回、3回…と回数を数えるように時間を数えることです。つまり、飛び飛びの値で時間を数えるということで、時計でいうと、アナログ時計ではなくデジタル時計の方が正しい時間の数え方であるということになります。

これも誤った俗説の部類になりますが、安全在庫計算式①の√の中に、半月だから0.5カ月であるなどと少数の値を入れて計算するのは、完全な間違いということであります。

以上に示したように、世間で常識とされている公式には間違ったものが含まれていますから、それを鵜呑みにせず、まずは地頭で考えることが大切なのです。