第3回 神楽坂SCMサミット

ギリシャ神話に「ゴルディウスの結び目」という伝説がある。

昔々、神に献じられていた荷馬車が、複雑なかたい結び目で神殿に縛り付けられており、これをほどいた者は全アジアの王となるであろうと伝えられていた。これが、ゴルディウスの結び目である。多くの者がこれをほどこうと挑戦したが誰もほどくことができなかった。

アレクサンドロス大王は、この伝説を耳にし、彼も結び目をほどこうとしたが、いっこうにらちがあかず、もどかしくなった彼は剣を抜き放ち、一刀両断、結び目を断ち切ってしまったという。

皆が、複雑さをそのまま扱おうとして、複雑な世界から抜け出せないでいたときに、彼は抜き身の剣のような純粋さで、複雑な世界を切り捨てたのである。そして、世界の覇者となった。

………

技術というのは優れたものが生き残るのではなく、力のある者に利益をもたらすものが生き残る。長年のエンジニア人生を振り返って、私が思うことである。

原発技術について考えると、とりわけその思いが強くなる。地熱発電技術など安全で優れた技術があるにもかかわらず、それよりも危険で未熟で複雑な原発技術の開発が優先されてきた。原発技術に投じた資金と時間を、自然エネルギー技術や蓄電技術に振り向けていたらもっと違った結果になったであろうことを考えると、つくづく悔しい思いになる。

生産管理技術の世界においても、それは同様である。“かんばん方式”は、力のある完成車メーカーの在庫削減・コスト削減には有効な方式ではあるが、立場の弱い下請企業にとっては過剰な在庫負担を強いられるものであった。私は中小企業診断士として現場の社長たちから生の声を聞くことが多かったが、世の中のトヨタ式ブームに反して、彼らの怨嗟の叫びを聞くことが多かったように思う。

生産管理システム、なかでも生産管理情報システムについては、その技術の主導権を握ったのは、ユーザーではなくコンピュータメーカーやソリューションベンダーであった。CIMやMIS、SCMといったキーワードが、彼らのセールスコピーから始まったことを思い起こせば納得できるであろう。

例えば、MRPがERPの標準的な方式となるほど生産管理方式としてメジャーなのは、コンピュータ業界やソリューションベンダー業界に利益をもたらすものであったからである。

初期のMRPで資材所要量計算を実行するためには、高価で高性能なコンピュータの導入を必要としたし、これが安価なパソコンでも実行できるようになると、今度は高精度の需要予測を売り物にするソリューションベンダーが登場する。MRPの構造的欠陥により、この方式のもとでは需要予測を的中させる以外に在庫を適正化することは不可能だからである。かくしてMRPユーザーは、不完全なシステムに膨大な投資を繰り返す結果となった。

生産管理は難しい、生産管理システムは複雑であるなどなど、生産管理や在庫管理の相談をもちかける方々の悩みはもっともである。MRPに限らず、不完全な生産管理システムしか提供されてこなかったからである。そしてその不完全さと複雑さのおかげで、ソリューションベンダーの仕事の種は尽きることがない。

また、生産管理の解説書も同罪である。何度繰り返し読んでもよくわからないのは、読者の頭が悪いからではなく、筆者もよくわかっていないからである。難しい内容をより難しく書くことで読者を煙に巻いているのかもしれない。

生産管理は複雑で難しいので、システム開発に時間も費用もかかるものであると、われわれは思いこまされているのではないだろうか。なぜなら、APIMを活用して正しい在庫基準値(発注点、安全在庫、補充点など)を設定・適用することで、生産管理システムの問題はきわめて単純に解決されるからである。まさに、アレクサンドロス大王の“抜き身の剣”である。

 

この技術を武器に生産管理の世界に革命を起こそうともくろんでいる

 

先日、このもくろみを密かに心に抱いて、ある会合をセットした。アスプローバの高橋さん、カイゼン本舗の竹之内さん、ゴール・システム・コンサルティングの村上さん、ジット経営研究所の古谷さん(いずれも社長、五十音順)と私が、神楽坂のさる料亭に集まったのである。

会には『神楽坂SCMサミット』という名前がつけられ、生産管理の世界に革命を起こす方向に向かって活動を始めた。活動内容は、この連載でも紹介するが、主にツイッター、フェイスブックで紹介していく。ぜひチェックしてみていただきたい。

第2回 生産管理の安全在庫はピカソロジックで!

読者の皆さん、こんにちは。今回はツイッターからとても興味深いご意見が寄せられましたので、それをご紹介します。

 

>『考え方・求め方』の方法で計算すると、理論在庫<在庫実績の品目が大半でした。恐らく数量も理論<実績です。対象は販売拠点・物流拠点ではなく、生産管理分野です。(@yryo)

<生産管理分野の安全在庫ですと研究が大幅に進展しています。工場管理7月号の記事をどうぞご覧になってください。(@inventory_apim)

>>ぜひ読ませていただきます。問題は需要変動に対する安全在庫より、生産トラブルに対するそれのような気がします。定量化が難しいです。(@yryo)

<<最新APIMでは、ピカソロジックで、需要変動対応安全在庫、需要予測誤差吸収安全在庫、歩留まり変動対応安全在庫、納入過不足対応安全在庫、、、、などの複数種安全在庫を重ね合わせ計算して総合的な安全在庫を算出します。 (@inventory_apim)

 

@yryoさんがご意見をお寄せくださった方で、@inventory_apimが私です。

@yryoさんは、拙著「適正在庫の考え方・求め方」に従って適正在庫を計算し、自社の製品にあてはめて研究されるなど、とても熱心に在庫管理に取り組んでいらっしゃる方です。生産管理の世界では、需要変動よりも生産トラブルに対する安全在庫の方が問題になっているとのことでした。

そこで今月は、生産トラブルに対するものなど、供給変動に対応する安全在庫を計算するAPIM技術であるピカソロジックをご紹介しようと思います。

古典理論における安全在庫とは、“需要変動または補充期間の不確実性を吸収するために必要とされる在庫”(JIS Z8141)として定義され、ただひとつの値を考えていました。

APIMでは、安そも研究(安全在庫とはそもそも何だろう研究)を踏まえて、安全在庫はひとつではなくさまざまな種類があることの発見を基に算出を行います。まず、次に示す複数の安全在庫を個別に求めます。

 

1.需要予測誤差吸収安全在庫

今回の生産でまかなう需要量は、予測によるものですが、これが外れると在庫が足りなくなったり余ったりします。この過不足を吸収する安全在庫です。

 

2.在庫予測誤差吸収安全在庫

生産品目や調達品目が倉入れされるのは何週間か何ヶ月か先の将来の時点になるのですが、その時点における在庫量を予測して生産・調達数量を決める必要があります。この予測誤差を吸収するための安全在庫です。

 

3.歩留変動対応安全在庫

生産したものが全て良品とならない場合がありますので、通常は歩留りを考慮した生産計画を立てます。この歩留りが安定していれば不足分を割り増しするだけでいいのですが、歩留りが変動する場合は、その変動により生じる過不足に対応する安全在庫が必要になります。

 

4.納入過不足対応安全在庫

生産能力の不足や、取引先のなんらかの都合によって、発注量を満足しない数量が納入されることがあります。過剰な場合もあります。これに対応する安全在庫です。

 

5.納入遅れ対応安全在庫

決められた納入日に遅れる場合、不足分に対応する安全在庫です。

 

APIMでは、これら5種類の安全在庫を個別・精密に計算し、その後それぞれの値の重ね合わせ計算をおこなって最終的な安全在庫を算出するのです。5つの値の単純な足し算にはならず、確率理論に基づく重ね合わせ計算が必要になります。

この一連の技術のことを『ピカソロジック』と名付けました。図に示したように、複数視点の画像を一枚の絵に統合表現するというピカソの絵画を見ているときにひらめいた技術だからです。

連載2回目の今月に、早速ツイッターから寄せられたご意見を取り上げました。これからも皆さんのご意見・ご質問を積極的に取り上げていきますので、どんどんお寄せください。

第1回 あなたはどちらのサプライチェーンを選びますか?

適正在庫という考え方が、かつてないほど広がりをみせています。

リーマンショック、東日本大震災と立て続けの経済・サプライチェーン危機を経たことで、最小限必要な在庫=適正在庫をきちんと持ちたいという意識が、経営者にも現場管理者・技術者にも浸透したようです。

この連載は、そんな適正在庫の考え方を正しく伝えるとともに、生産管理・在庫管理に携わる方々との交流の場を設けたいとの思いで始めまし た。

十年前、在庫ゼロを理想とすることが常識であった生産管理の世界で、「いやいや、ちゃんと適正在庫をもちましょう」という主張をはじめた私としては、昨今の風潮はうれしくあるものの、誤解や無理解に基づく玉石混淆状態を心配しています。適正在庫のキーワードだけを標榜する間違った考え方が広まることで、正しい技術が追いやられる「悪貨が良貨を駆逐する」事態になることを避けたいと思ったのです。

特に、インターネット上に流通する情報に混乱が見られるようです。今、「適正在庫」というキーワードでgoogle検索をすると300万件近くがヒットします。

これは喜ばしいことなのですが、どうも適正在庫の考え方を取り違えていたり、売らんかな主義で言葉を並べただけのところも多くあるようなのです。そこで、適正在庫の考え方を正しく世の中に伝える場をつくろうと思い立ち、さらに多くの方々の疑問に答える機会を設けようと考えたわけです。

「適正在庫」という言葉自体は昔からあり、特に商業関係では一般的に使われていました。私が生産管理の世界で初めてこの言葉を使ったのは、2000年のことですが、その当時、モノづくりの世界では「在庫は悪」であり、「在庫ゼロ」が生産管理の理想とされていました。そんな環境で「適正在庫」を言い出したのですから、相当な軋轢が生じたのを覚えています。

しかし、2003年に出版した「適正在庫の考え方・求め方」(日刊工業新聞社刊)に続く適正在庫三部作がベストセラーになるなど、その後少しずつ適正在庫の考え方は市民権を得るようになりました。

2000年当時に、私が掲げた適正在庫の定義は次の通りです。


【適正在庫の定義】

欠品を防止しながらぎりぎりまで在庫を減らせる限界値


できるだけ在庫を減らしたいのはやまやまだけれども、必要最小限の量はちゃんと持とうよという考え方です。

そして、そのような値がわかればいいね、ではなく理論研究を踏まえて適正在庫を計算する技術も開発したのです。その技術を実装したソフトウェアは、「適正在庫算出システム APIM」として市販されるようなり、今では誰でも適正在庫を知ることができるようになりました。

適正在庫の考え方を世に広め始めた当初、よく反論されたのが「適正在庫の値はゼロである」という主張でした。これに対して私は明確に「No!」と答えてきました。なぜなら在庫ゼロは決して実現することのできない値だからです。そのことを理解せずに「トヨタではできている」と勘違いして本当に実現しようとすると、多くの場合、取引先や顧客に不当に在庫負担を強いることになってしまうからです。

適正在庫を知ることができなかった時代には、ゼロを目指して在庫削減に努力しようという主張はそれなりに意味をもつものでしたが、APIMの登場により誰でも簡単に自社の適正在庫を知ることができるようになったのですから、在庫ゼロ思想は害悪以外のなにものでもありません。

在庫ゼロ思想は、足を鎖で縛りつけたサプライチェーン。適正在庫思想は、メンバーが手を組み合うサプライチェーンなのです。

この連載は、読者の皆さんと双方向で作り上げていきたいと思っています。適正在庫をキーに皆で活発に情報・意見交換や議論ができればいいなと考えています。編集部経由でも、冒頭のツイッター、フェイスブックを通してでも結構ですので、ご意見・ご質問などどんどんお寄せくださいませ。次回以降は、皆様からお寄せいただいたご質問をとりあげる<Q&Aコーナー>を設ける予定です。

第11回 APIM新バージョン!

適正在庫算出システムの新バージョン、「APIM5」が完成しました。今回はホットニュースをお伝えします。

APIM5の一番の特長は、新概念の需要予測機能を取り入れたことです。どこが新概念かというと、予測に時間軸を追加した点です。この点を順を追ってご説明いたします。

 

 

<需要予測の基本>

まずは需要予測はどう行うのかについて、基本的な考え方を示します。大きく分けて次の3つの柱があるといえます。

①過去実績の延長上に時系列変化として予測

②天候やイベント等との相関関係で予測

③個別取引案件予想の積み上げで予測

①の時系列変化予測は需要予測ソフトでおなじみの機能で、上昇局面にあるのか下降局面にあるのかのトレンド予測と季節性および周期変動の予測が基本的なものです。過去の需要実績データを統計的に解析して将来動向を予測します。

②の相関関係による予測は、夏季の気温予想に基づいてアイスクリームの販売予測を立てたり、お祭りの日のお酒の売上げ増を予測したりする類いの需要予測です。

最後の個別取引案件予想に基づく需要予測とは、営業マンが抱えている引き合い案件をその成約確率を織り込みながら売上げを予測するというやり方です。リピート顧客の再注文の予測などは比較的容易な部類に入ります。

 

<ここでもピカソロジック>

以上の予測をそれぞれ行いながら、最終的に集計する必要があります。APIMの需要予測機能では、ここに安全在庫算出技術として開発されたピカソロジックを適用しています。

将来の需要を確率分布としてとらえ、確率分布の重ね合わせ計算技術であるピカソロジックを適用するのです。ここで、排他的重ね合わせ計算技術と非排他的重ね合わせ計算技術の使い分けノウハウが重要なポイントとなります。

 

<時間軸の考え方とは?>

集計計算を行う際にキーとなるのが時間軸の概念です。将来需要の確率分布は単位期間当たり需要の確率分布として把握され、それを供給対象期間内需要の確率分布として集計することになります。ここで供給対象期間とは、どの期間に向けて製品や部品、材料を生産・調達するのかというターゲット期間を指します。そしてその期間の初めと終わりと長さは固定でないことがままあります。予測すること自体が目的の需要予測では、カレンダー通りに月単位や週単位で区切った期間の需要を予測すればいいのですが、生産管理・在庫管理のために使う需要予測では、リードタイムの不確実性により、その期間が一定・固定とならないからです。

ここで、APIMのコア技術である、リードタイム変動に対応する安全在庫算出技術が活きてくるのです。変動リードタイムを変動供給対象期間に置き換えて、その期間中の平均需要を計算することで需要予測を行うというのが、新しい発想であり、新しい技術であります。

ちょっと考えると、平均リードタイムと単位期間当たり平均需要をかけ算することで簡単に求められそうに思えるのですが、実はそうはならないからです。このことは、連載第8回で述べたオランダ人SCMスタッフから教えていただいたことです。あのときのバトルが新概念の需要予測技術として結実したのです。

 

<予測のための予測から使える需要予測へ>

以上のような需要予測を行うことにより、安全在庫算出技術との親和性も向上しました。APIMでは需要予測誤差を吸収する安全在庫を求めるのですが、その際に確率分布としての需要予測がうまくフィットするのです。

当初、APIMでは需要予測を完璧に当てようとするのはナンセンスであると公言して、予測誤差の発生を前提に安全在庫を算出する技術を深掘りしていたのですが、結局それが新概念の需要予測技術を生み出すことになりました。

さらに、安全在庫算出過程で使われる平均需要の算出精度を向上させることで、安全在庫算出精度の大幅な向上をもたらす結果ともなりました。

この記事が読者の目に触れる頃には、APIM5はリリースされていると思います。どうぞご期待ください。